マムシと呼ばれた男が死んだ

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鮮烈な個性の昭和の創業経営者

闇金の帝王、マムシと呼ばれた男が死んだ

森下氏は田園調布にベルサイユ宮殿風の豪邸を建て、自身が買収したゴルフ場に自家用ヘリで向かうなど、「ヤミ金の帝王」と呼ばれる存在だった。

しかし、96年にバブル崩壊の煽りを受け、アイチは事実上の倒産。森下氏は表舞台から去った。この森下氏がコロナ禍の今年月に亡くなっていたというのだ。
「週刊現代」2021年4月10号より
https://gendai.media/articles/-/81924?page=2

田園調布の森下安道氏の豪邸

森下安道氏に会ったのは私が叔父の経営する建設会社の経理責任者だった33歳の頃だ。引き締まった容貌に鋭い目つきが印象的だった。如何なる者に対しても一歩も引かぬというオーラを発し、一見して只者ではないと感じさせた。

同業の知人から街金としてアイチを紹介され、一時しのぎの資金を借入れに事前の知識なしに四谷の事務所を訪れた時の印象である。

元店長

闇金の帝王、昭和の怪物、金融事件の影にアイチ有り、マムシの森下、
彼に冠された数々の名誉ある別称は後で知った。

事務所に一歩入ると、そこは別世界だった。壁には所せましとばかりに、大きく高価そうな油絵が調和もなく掛けられており、床には大きな壺が数個置かれている。これでもかと思えるほど成金趣味満開の部屋であった。

そこでいやなものを見た。
初老の紳士が床に土下座懇願している姿だ。社長室のドアが締められておらず中が丸見えだった。

先客が帰った後で社長室に通された。一番先に目についたのは床に敷かれた虎の一枚皮だった。

200万円の申込金は二つ返事でOKが出た。額面200万円の日付の記載なしの小切手と交換に現金を受け取った。この小切手が命取りになることなど想像もしなかった。

社長が手形詐欺にかかった。被害額1億7千万円

その数日後、社長が1億7千万円の手形を詐取された。現在の価値にすると5億円を越える金額になる。半年以上もかけて仕組まれた手形詐欺に愚かにも乗せられたのだ。最初は経理責任者である私がターゲットにされたが、私はすぐに詐欺と見破り社長に報告済みだったにもかかわらずにである。振り出した手形の期日は数か月先である

元店長

元請けにも、銀行にも信用されていた会社だったのに

手形が詐取されてから間もなくアイチに渡した200万円の小切手が期日前にも関わらず予告なしに振り込まれたのである。銀行から預金不足の連絡がきた。

私は会社が倒産する覚悟を決めた。この日は、誰も出社せず、私一人が事務所にいた。3時近くに銀行の支店長から電話があった。

支店長「必要な資金は出しますよ。500万、700万?」

私「イヤ結構です。1銭もいりません。」

一時的に資金ショートをしのいでも、いずれ期日が来る億単位の決済資金を調達できるはずもない。

支店長「そうですか・・・・・」こちらの覚悟を感じ取った風で、気落ちした声でつぶやくように云って電話はきれた。

真実の事情を知らず、一時的な資金ショートの救済のつもりで融資した直後に融資先が倒産したら、支店長の責任が問われることになるだろう。長年お世話になった支店長に迷惑をかけてはいけないと、心の奥で思った。

アイチは何故、返済期日前に予告なしに小切手を振り込んで倒産に追い込んだか?

アイチは、裏社会の情報に精通しており、融資先の会社が手形詐欺の被害にあった情報をいち早く得て、手形不渡りの前に小切手を振り込んで倒産させ、資産を押さえようとしているに違いない。と確信した。

3時の小切手不渡りを合図にアイチの債権取り立て担当社員が現れて、一番先に要求するものは何か?
会社の実印だろうと推測した。

ナイフで実印の印面を削って、ビルの窓から外へ落とした。

予想どうり、3時過ぎにアイチの社員と名乗る男2人が現れた。

一人はわけしり顔の中年男で、もう一人はチンピラ風の若い男だ。わけしり顔の男は開口一番会社の実印を出すように告げた。

チンピラ男はものも言わず、金庫のダイヤルを回し始め、ダイヤルロックのかかった金庫をいとも簡単に開けてしまったが、実印がないことを知って大げさに悔しがっていた。

金庫から取り出した何冊かの小切手帳と手形帳を手にして、「実印があれば一枚〇〇万円で売れるのにナア」
チンピラ男が嘆いた。

倒産して、ごみになった小切手帳や手形帳が一枚数万円で売れるとは知らなかった。

一晩事務所に監禁

翌日の朝まで事務所に監禁状態だった。実印の所在を執拗に攻められ、かかってきた電話にも出られず廊下に出ることも許されなかった。一晩かけても、なにひとつ私の口から実効性のある情報は得られなかったはずである。

2人が帰りがけに、わけしり顔の男が私に「うちに来ないか?」と、ヘッドハンティングの誘いを受けた。

当然、お断りをした。

元店長

うちの奥さんが、帰ってこない夫を心配して警察に相談したら、民事不介入で断られたそうな。監禁は立派な犯罪だろうに。

手形被害額1億7千万円。額面1千万円の手形17枚。現在(令和4年)の価値で5億数千万円

倒産後、額面1千万円の手形17枚で1億7千万円の不渡り手形を手にした得体のしれない善意の第三者を名乗る者たちが押しかけてくるだろうと予想し覚悟をしてたが不思議なことに一人も現れなかった。手形を詐取された直後は、関西方面より頻繁に
信用調査の電話が銀行にかかって来ていた。不審に思った銀行から私に問い合わせの電話があった。

銀行「関西方面から手形の信用調査の電話が盛んに掛かってきますが、どうしました?」
私「神戸の高速道路工事の支払いを手形でしているせいだと思います」詐取された手形が、関西に流れていると感じた。

神戸で受注額3億円の高速道路建設が工事中なのは事実である。

非難がましいことを云う一般の債権者も皆無で、逆上した債権者に1,2発殴られるかもしれないと思いながら毎日出社していたが、無用の心配だった。

夜逃げした社長の叔父は経営能力は無いが人間力が豊かだったのだろうと思うことにした。そう思うことが唯一の救いとなった。

元店長

我が家系は経営者には不向きと自覚した。つまるところ、人が良いのだ。

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